修士・博士論文

修士論文(2015.3)

津波避難行動に関する決定木分析の結果

提案手法の概念図

「わがこと意識」向上のための災害体験談の加工・活用手法の提案

友安 航太

本研究では、地震活動期である21 世紀前半を乗り越えるために必要な「わがこと意識」を高めるための体験談活用について検討した。まず、体験談を数値データにコーディングし、定量分析を行うことで過去の災害における被災者の心理・行動を明らかにする分析手法を提案・実践した。さらに、体験談そのものや、体験談から得た知見・教訓を防災教育に活用するために、防災教育プログラムの分析によって防災教育の現状の明確化を試みた。 体験談の分析では、南海トラフで発生した1 つ前の被害地震である1944 年東南海地震の体験談から、津波避難に影響を及ぼす要素を数値データ化することによって、被災者の津波避難心理・行動について定量分析を行った。分析の結果、津波避難の成否に大きな影響を及ぼす要因を抽出することができた。さらに、抽出した要因と「わがこと意識」の関連を考察した。今回の分析では三重県の事例を扱ったが、結果からは、認知バイアスによる避難の遅れといった人間特性がみられ、異なる地域でも共通する一般性のある知見が得られた。 また、コーディングの際に、避難行動に関する記述が少ない体験談が散見されたという問題を踏まえて、今後の体験談調査では、半構造化面接のような構造をもつ調査手法によって被災者から体験談を収集するべきだと提案した。 防災教育プログラムの分析では、内閣府がサポートする防災教育事業の「防災教育チャレンジプラン」の下で行われた先進的な教育プログラムを分析することで、現状の防災教育について把握した。分析の結果、整然としていなかった防災教育プログラムを4 つの類型に整理することができた。また、防災教育プログラムが充実していない領域の存在が明らかになった。中でも災害時要援護者を対象とした教育を充実させていくことは、大きな課題である。また、各類型のモデルケースにおける「わがこと意識」向上に関わる学習について考察した。さらに、体験談を活かした防災教育の展開についての検討を進めた。 本研究で提案した体験談の加工による分析手法は、伝えるべき知見・教訓を抽出するための手法であり、類型化した防災教育プログラムは知見・教訓を伝えるための手法と位置付けられる(図29)。低頻度事象である災害において、比較的容易に収集できるデータである災害体験談を加工して、量的な分析をすることで、一般性を持つ、伝えるべき教訓を抽出することができる。今回の分析では、低頻度の津波災害の中では、比較的頻度の高い10メートル級の地震津波が発生した1944年東南海地震における三重県の被災者を対象とした 。

関連論文(査読付学術論文)
1)友安航太・木村玲欧(2014)被災者体験談のコーディングによる津波避難心理・行動分析手法の提案—1944年東南海地震を事例に—, 歴史地震, 第29号, pp.173-182.
2)KIMURA, R., TOMOYASU, K., YAJIMA, Y., MASHIMA, H., FURUKAWA, K., TODA, Y., WATANABE, K. and KAWAHARA, T.(2014)Current Status and Issues of Life Recovery Process Three Years After the Great East Japan Earthquake Questionnaire Based on Subjective Estimate of Victims Using Life Recovery Calendar Method, Journal of Disaster Research, Vol.9, No.7(special edition), pp.673-689.
3)松山雅洋・林春男・木村玲欧・友安航太(2014)災害時要援護者支援に係る避難支援推進モデルの提案-神戸市の防災福祉コミュニティを事例として-, 地域安全学会論文集, No.24, pp.283-291.
4)TOMOYASU, K., KIMURA, R. and HAYASHI, H.(2015)Attempt to Typify Disaster Educational Programs – Case Study of the Disaster Management Education Challenge Plan, Journal of Disaster Research, Vol.10, No.2, pp.210-216.
5)TOMOYASU, K., KIMURA, R., MASHIMA, H., and KAZAMA, I.(2015)Issues Facing Voluntary Evacuees from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident Based on the Collection and Analysis of Cases of Voluntary Evacuation, Journal of Disaster Research, Vol.10, No.7(special edition), pp.755-769.

関連論文(学会発表論文(アブスト査読付))
1)TOMOYASU, K., WANG, Y., KIMURA, R. and SUMIYA, K.(2014)Will Mail-Based Disaster Information Work Well?: A Case Study in Japan, Proceedings of the 7th International KES Conference on Intelligent Interactive Multimedia Systems and Services(KES-IIMSS 2014), pp.293-303.